夏が本場の発酵食「豆豉」づくり

 以前、ブログで、台湾で保存食のことが学べる農家民宿について記事を書きました。ステイ先のお母さんに発酵食を学びたいというと、「夏にまたおいで」、と言われました。台湾では発酵は夏がシーズンなのだそうです。

日本だと、豆麹は冬に仕込むものなので、「夏に豆麹なんか作って大丈夫?」と聞くと逆にびっくりされました。「何をいってるんだ?冬だったら発酵しないじゃないか?!」と。

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以前農家ステイをしていた宜蘭の冬山郷はお茶で有名な村ですが、お茶の閑散期に加工品づくりをしている農家さんが多くて、茶菓子だったり、豆腐乳だったり、豆豉だったり、パイナップルの漬物だったり。そういう手仕事も体験できる仕組みになっているのですが、その仕込みの時期に行かないと体験できないものも多く、豆豉もその一つでした。

豆豉は、黒豆の麹を塩漬けにして干したもので、乾いた納豆みたいな感じです。日本にも留学僧が持ち帰った豆豉が、「寺納豆」「浜納豆」「大徳寺納豆」「一休寺納豆」といった名前で主にお寺で受け継がれてきました。

夏に作る豆麹って作ったことがある人はなんだかハードル高いな、と思われるかもしれませんが、鮒寿司も夏場にいっきに乳酸発酵にもっていくことで雑菌を抑えていると言われます。温度を一定以上にあげるか、もしくは一定以下に下げるか、あるいは、PHをアルカリにもっていくか、酸性にもっていくか。雑菌が好まない環境で、有用微生物が働きやすい環境にもっていくこと。そこに人と菌の共生の味が生まれてくるのです。

その知恵は、国境や言語を超えて共通するものもあるのですが、気候や風土によっても違うもので、異文化の伝統的知恵を学ぶことはとても興味深いものだと感じています。

youtubeより。台湾の豆豉づくり。

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日本の文献にはあまり詳しく載ってないのですが、以前ブログに書いた「発酵與醸造」という台湾の本にかなり詳しく地域別の豆豉のなりたちと分類がのっています。この作者は、台湾やタイの醤油工場で働いていたことのある人で、めちゃ面白いです。

基本的な豆豉の作り方

①黒豆を水に一晩浸し、蒸す。

②均等に冷まして種菌をまき、32度で7日間発酵させて豆麹を作る(台湾のおばあちゃんは南瓜の葉を使ってる)。

③豆麹(中国語で"豆譜"とか、"豆脯"と呼ばれていて、市場で買えます)の緑色の胞子を洗い流す(これ、日本の豆麹の仕込みにはない工程なんですが、大陸も台湾もどのVTR見ても洗ってる)。

④太陽に晒す。

⑤塩を混ぜて、甕につめる。

最後の「塩を混ぜて〜」、のところは、大概のレシピには「いい塩梅で」とかかれている。何パーセントか書いているレシピはほとんどないのです。日本の浜納豆も非公開らしい!

中国語でググると(中国語ではバイドゥると呼ばれます)、論文が色々出てくるし、台湾の「発酵與醸造」の本にも詳しく書かれています。

しかし、一言でいうのは難しく、時と場合と地域と気候によって「いい塩梅で」という結論に達するわけですが、科学論文の実験は8%~18%あたりで実験されていますね。

中国語で発表された科学論文集「塩分濃度が豆豉の後発酵への影響」はかなりの数に。

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日本の梅干しと一緒で塩のかわりに砂糖を使っている地域もありますが、浸透圧をどのくらいあげるかで保存性が高まっていくので、砂糖でも塩でも保存性的にはどっちでもいいわけです。ただ、塩辛味や甘みをうまいと感じるか、まずいと感じるかは地域性なんですよね。

私は甘い豆豉は微妙なので(蜂蜜の梅干しもあんま好きじゃない)、100%塩でいきます。私はだいたい腐乳も10%でいってますが、心配な人は気持ち高めにするのがいいのかな、と思います。

これ、実は18%の方が雑菌が繁殖した、という実験結果もあったりして、一瞬あれ?と思ったのですが、塩分濃度高い方が乳酸菌が減って、味覚も落ちると書かれています。動画見てても、無塩で作っている家庭もあるようです(中国はyoutube禁止なので百度(バイドゥー)で動画検索かけると結構出てくる)。「すんき」も無塩乳酸発酵食品ですが、それに近いのかも。読み進めるとむちゃくちゃ面白いのですが、塩濃度が低い方が乳酸菌の初期初動がいいらしいんです。鮒寿司と一緒で夏に仕込む発酵食のキーは乳酸でしょうか。一気に酸性にもっていくことで雑菌コントロールするという伝統的知恵は、国境を超えてますよね。菌と人の絶妙な駆け引きが行われているわけです。面白いです。結局のところ、「いい塩梅」を見つけましょうということですね。

で、仕込むときに、豆豉はそもそもは生薬として受け継がれてきたわけで、甘草とか花椒、小茴香、陳皮なんかもまぜる地域もあるようです。甘草は日本だとあまり使わないですが腐乳や、パイナップルの漬物なんかにも使われています。甘草、わたしはあまり味が好きじゃないので使わないですが、けっこう中華では重要な役割なんですね。生薬の話に及ぶと止まらなくなるのでこのへんで。

そんなこんなで、夏のつれづれなるままに豆豉雑記でした。

大陸の豆豉づくり。ちょっとちがう。


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